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公益社団法人日本放射線腫瘍学会

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利点多い放射線照射

日本でも最近は、胃がんに代表される細菌などの感染型のがんが減り、乳がんや前立腺がんといった欧米人に多いタイプが急増しています。手術向きの胃がんと違って、欧米タイプでは放射線照射も大きな役割を果たします。

かつて乳がんの治療では、乳房とその下の胸筋、さらにわきの下のリンパ節をごっそり切除する乳房の全摘出手術が主流でした。しかし今は、がんの病巣だけを取り除き、乳房全体に放射線を照射して再発を防ぐ「乳房温存療法」が主流となっています。

前立腺がんでも、前立腺の全摘出手術と放射線照射で同程度の効果があることが分かっています。欧米では放射線照射が手術以上に実施されています。また、子宮頸(けい)がんは、欧米では約8割の患者が放射線照射を受けているのに対して、日本では8割以上が手術を受けています。

がん全体でみても、欧米では6割近く患者が放射線照射を受けていますが、日本は3割程度に留まります。ただ日本でも放射線で治療する割合は増えており、10年後にはがん患者の半数近くが受けると予想されています。日本人の半数以上が生涯にがんを発症します。国民の4人に1人が放射線による治療を受ける時代が来るといえます。

放射線照射の特徴は副作用が少ない点です。以前は末期のがん患者に使われるといった誤解がありました。これは、末期がんでも使えるほど副作用が少ないことを意味します。がん治療の3本柱である手術、抗がん剤投与、放射線照射の中で、体力の落ちた末期がん患者に使えるのは放射線ぐらいといってよいのです。

放射線照射の最大の利点は早期のがんを切らずに治し、臓器の機能や美容を保てる点です。喉頭がんは手術でも放射線照射でも治療成績はほとんど変わりませんが、多くの場合は放射線が選択されています。手術によって声を失うこともあるからです。乳がんも乳房温存療法なら外見の変化も少なく、温泉にも安心して行けるでしょう。肛門近くの直腸がんでも手術前に放射線をかけることで、人工肛門になるリスクを減らせます。

このほか、放射線による治療は通院で受けられることが多く、費用負担も少ないなどさまざまな利点があります。

2015/11/12 日本経済新聞 『がん社会を診る』
東京大学病院准教授 中川恵一 

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