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公益社団法人日本放射線腫瘍学会

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放射線治療支える医学物理士

放射線治療は手術、薬物療法と並ぶがん治療の3本柱の一つです。コンピューターや機械工学の進歩を受けて、がん病巣にだけ放射線を集中させる「高精度化」が進み、肺がんや前立腺がんなど、多くのがんで手術と同じくらいの治癒率をもたらしています。

放射線治療のハイテク化を支えるのが「医学物理士」と呼ばれる専門職です。欧米では理学・工学博士が医学物理士として医療現場で活躍しており、その社会的地位や認知度は非常に高いものがあります。病院での業務にとどまらず、ベンチャー企業を立ち上げて新しい治療装置を開発するなど、最新の放射線治療をけん引している存在です。

しかし日本では医学物理士の認知度は十分と言えず、成り手も不足しています。多くの施設では診療放射線技師が医学物理士の業務を兼任しているのが実情で、ハイテク放射線治療の普及においては大きな問題となっています。

医学物理士の仕事を専門とする人材とポストを確保することは、日本の放射線治療にとって急務です。特に理工学系の学生や有期雇用のポスドク(博士号を持つ若手研究者)にこの仕事に興味を持ってもらうことが重要です。理工学系のポスドクの中には数学や物理学の能力に優れていながら、大学などのポストが極端に少ないため、雇用に恵まれない人たちが数多くいます。彼らは高いポテンシャルを持っていますから、日本でも多くの優秀な理工系出身者に医学物理士として活躍してもらいたいと考えています。

東大病院の放射線治療部門では現在5人の医学物理士が在籍しています。彼らのバックグラウンドは素粒子原子核物理や放射線科学など様々です。通常の臨床業務を行いながら、最新の研究にも従事しています。

その一例が、2009年に発表された東大病院による治療中に腫瘍の時間的な動きを捉える「4次元コーンビームCT」の研究です。この技術は放射線照射中の腫瘍の動きを捉えた点で放射線治療を大きく進歩させ、世界中の放射線治療装置に実装されることになりました。

まだまだ、知られていない医学物理士ですが、多くの優秀な若者が医学物理士を目指したいと思えるような環境づくりが必要です。

2018/05/30 日本経済新聞 『がん社会を診る』
東京大学病院准教授 中川恵一 

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