進む放射線治療、「定位」に脚光
「定位放射線治療」が注目されています。がんの病巣だけにピンポイントに放射線を集中させる技術により、1回あるいは数回の治療で大線量を一挙に照射します。
定位放射線治療は「ガンマナイフ」から出発しました。半円球状に配列された約200個のコバルト線源から出る細いビームを一点に集束させて、たった1回の治療で、非常に高い線量を脳内の病巣に集中させることができます。
日本では、1990年に第1号機が東大病院に導入され、3000人以上を治療しました。開頭はせず、金属製のフレームを頭部に固定することで0・5ミリ以下の極めて高い精度で病変だけを狙い撃ちすることが可能です。
ガンマナイフ治療は原発性の脳腫瘍より、転移性脳腫瘍の治療で力を発揮します。神経組織から発生する原発性脳腫瘍は脳組織との親和性が高いため、周囲へ染み込むように浸潤します。しかし、肺や乳腺から発生したがん細胞が脳に転移しても、神経組織とは性質が違うため、正常の脳組織との間に明瞭な境界ができることがふつうです。かつて長崎にあった出島やロサンゼルスの日本人街「リトル・トーキョー」に例えることができるかもしれません。
このため、転移性脳腫瘍では、ナイフのような切れ味を持つガンマナイフがぴったりで、効果も開頭手術と同程度だと確認されています。今や、ガンマナイフが脳転移治療のゴールドスタンダードになっています。
定位放射線治療が次に標的としたのが早期の肺がんです。しかし、体幹部では、ガンマナイフのようなフレームによる固定はできませんし、がん自体も呼吸とともに最大2センチも動きますから、脳の定位照射にはない課題を解決する必要があります。
このため導入されたのが「画像誘導照射」や「4次元照射」の技術です。フレーム固定のかわりに、照射の直前に治療装置に付属する専用CTで肺がんの位置を計測して狙い撃ちします。呼吸性移動に対しても、事前のシミュレーションによって移動範囲の計測が可能となっていますし、治療中の肺がんの動きをリアルタイムに追いかける「追尾照射」も行われています。放射線治療はまさに日進月歩です。
2020/02/19 日本経済新聞 『がん社会を診る』
東京大学病院准教授 中川恵一