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公益社団法人日本放射線腫瘍学会

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放射線治療 免疫低下ほぼなく

女優の岡江久美子さんが4月23日、新型コロナウイルスによる肺炎で亡くなりました。63歳の若さでした。心よりお悔やみ申し上げます。

岡江さんの所属事務所はこの件について、以下のコメントを出しまた。「昨年末に初期の乳がん手術をし、1月末から2月半ばまで放射線治療を行い免疫力が低下していたのが重症化した原因かと思われます」。ニュースなどでも取りあげられ、記憶にある方も多いと思います。

しかし、一般的に言って、初期の乳がんの手術後の放射線治療で免疫力が大きく下がることはまずありません。放射線治療中の患者やこれから放射線治療を受ける予定の人に大きな不安と動揺を与えかねない報道だと危惧します。

実際、東大病院で放射線治療を受けている患者さんからも多くの相談が寄せられました。免疫を担う白血球などは、骨髄で作られますが、乳がんの放射線治療で照射される骨髄はわずかであり免疫力の低下は考えにくいからです。

もちろん、予防的に広い範囲で放射線を照射した結果、骨髄の働きが悪くなり、白血球が減って、免疫力が一時的に低下するケースがないわけではありません。特に、放射線と抗がん剤を同時に組み合わせる化学放射線療法では、その影響も無視できません。

ただ、多くの放射線治療では通院で治療が終わり、免疫力の低下はほとんどみられません。一方、手術の後に放射線治療を行うことで、乳がんの再発のリスクが減ることは科学的に証明されています。

日本乳癌学会の井本滋理事長も「新型コロナウイルスによって重症化する原因になるほど、免疫力が下がるとは考えにくい。同様の治療を受ける患者さんについては感染予防を徹底する必要はあるが、過剰な不安は抱かないでほしい」とのコメントを出しています。

放射線治療を専門とする日本放射線腫瘍学会もホームページで、「早期乳がん手術後に行われる放射線治療は、体への侵襲が少なく、免疫機能の低下はほとんどありません」とメッセージを出しています。

新型コロナウイルスに関連したデマはたくさんあり、問題です。がん治療では、「標準治療」を受けることが何よりも大切です。

2020/05/20 日本経済新聞 『がん社会を診る』
東京大学病院准教授 中川恵一 

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