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公益社団法人日本放射線腫瘍学会

JASTRO Japanese Society for Radiation Oncology

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放射線治療 イメージアップへ

がんは、初回の治療で治しきることが大切です。一度再発してしまうと、完治の可能性はかなり低くなりますから、敗者復活戦のない一発勝負に近い面があります。当然、治療法は慎重に決める必要があります。医師も、がんの種類や進行度はもちろん、患者の年齢や体調、さらに家庭や仕事など、「全人的」に診ながら、治療法を提案します。

しかし、治療法は医師が押しつけるのではなく、患者や家族と相談しながら決めていくものです。病気との向き合い方、一番大切にしたい点、仕事は休めるのか、頼れる家族はいるのかなど、状況は千差万別です。さまざまな要素を判断して、一人一人に最適な治療を提供できる医師が名医なのだと思います。

多くのがんで、手術と放射線治療は同じくらいの治癒率をもたらしますが、その代表が子宮頸(けい)がんと前立腺がんです。私たちは、これらの患者が、受けた治療法を選んだ理由を明らかにするための調査を行いました。

質問は収入や職業、婚姻状況や経済状態、治療法を決めた時に考えたこと、家族や主治医との関係性、医師から勧められた治療法、手術や放射線治療に対する印象など、多岐にわたりました。インターネット調査により、各200人超の回答を得ました。

子宮頸がんでは回答者の78%が、前立腺がんでも62%が手術を選んでいました。高齢の男性が多い前立腺がんと30〜40代の若年女性も多い子宮頸がんでは、事情が異なると考えていましたが、結果はおおむね同じでした。医師から勧められた治療が選ばれる傾向があったのは当然として、手術や放射線治療に対するもともとのイメージが、治療法の選択に決定的な影響を与えていたのです。

患者本人の希望、社会的な状況などよりも、手術や放射線治療に対する印象そのものが治療法を決定する可能性があるということです。 なお、同時に実施したがんに罹患(りかん)していない人に対する調査では、がんについての知識やリテラシーが高い人ほど、放射線治療への印象が良いという結果が出ました。

医療ドラマなどでも、手術が主役で、放射線治療は出る幕がありません。これからも、放射線治療のイメージアップに努めたいと思います。

2020/09/09 日本経済新聞 『がん社会を診る』
東京大学病院准教授 中川恵一

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