乳がん放射線治療 高い満足度
乳がんは日本の女性に最も多いがんです。2018年のデータでは、9人に1人の日本女性が経験しました。
かつては、欧米諸国に比べずっと少なかったのですが、08年は「14人に1人」、12年は「11人に1人」と欧米なみの割合になってきています。
食生活の欧米化や肥満、運動不足といった生活習慣の変化の他、少子化が大きな影響を与えていると考えられます。妊娠から授乳に至る約2年間はホルモン環境が変わり、乳がんリスクが下がります。授乳が乳がんを予防することも確実視されています。出生率の低下が乳がんを増やすことになるわけです。
さて、放射線治療を受ける患者さんのなかでも、乳がんは大きな割合を占めます。公益社団法人「日本放射線腫瘍学会」は5月、乳がん経験者約300人を対象に、受けた治療法などについてのアンケート調査を行いました。
頭頸(けい)部がん、肺がん、前立腺がん、食道がん、子宮頸がんなど、多くのがんは放射線で治すことができます。しかし、乳がんの完治には何らかの手術が必要です。手術の方法は乳房全切除術と乳房温存手術に大別されます。今回の調査でも、全切除術と温存手術はほぼ半々の割合で行われていました。
前回、幕末の医師、華岡青洲が煎じ薬を使った全身麻酔下に乳房温存手術を行ったことを紹介しました。現代の乳房温存手術では、わずかな例外を除き、術後に放射線治療を行うことが原則です。
しかし、このことを治療の前から知っていたのは1割余りでした。また、温存手術を受けた患者の1割超が術後の放射線治療を受けていないことも分かりました。
放射線治療で「髪が抜ける」「入院が必要」など、誤ったイメージを持つ人が多いことも分かりました。
一方、「治療前に思っていたより楽だった」と回答した割合は放射線治療が4割強と手術や薬物療法よりも高い結果が出ました。さらに、治療の満足度も放射線治療が86%とベストでした。
自由記述では、女性技師に担当して欲しいという要望が多かったのは予想通り。その他は、放射線治療への好印象が目立ちました。
これからも、女性に優しい放射線治療をめざします。
2020/09/15 日本経済新聞 『がん社会を診る』
東京大学病院准教授 中川恵一