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公益社団法人日本放射線腫瘍学会

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No.262
5-アミノレブリン酸(5-ALA)はミトコンドリアでの活性酸素種(ROS)生成の増加を介して低酸素による放射線抵抗性を克服する

5-Aminolevulinic acid overcomes hypoxia-induced radiation resistance by enhancing mitochondrial reactive oxygen species production in prostate cancer cells Owari et al., Br. J. Cancer, 127: 350-363, 2022
DOI: https://doi.org/10.1038/s41416-022-01789-4.

背景

がんにおける低酸素環境は放射線治療抵抗性をもたらす。それを克服するための方法の1つとして、ミトコンドリアにおける活性酸素種 (ROS) の生成の増加を介した放射線増感法の開発が望まれる。5-アミノレブリン酸(5-ALA)は全ての生物に存在する天然アミノ酸で、ミトコンドリアで生成されるヘム生合成経路の出発基質である。正常な細胞では、8つの酵素反応を通じて、プロトポルフィリンIX(PpIX)を経て最終産物のヘムが生合成される。一方、がん細胞では、中間代謝産物のPpIXが蓄積する性質がある。PpIXは光感受性を有し、光励起によってROSが生じ、細胞を傷害する。このことから、5-ALAは光線力学的治療(PDT)の増感剤として一部の表在性のがんで実用化されているが、深部のがんには適用できない。本研究では、前立腺がんにおいて5-ALAを放射線増感剤として使用できる可能性とそのメカニズムについて、in vitroとin vivoの系で検証した。

方法

ヒト前立腺がん由来の細胞株(PC-3とDU-145)、および、マウス前立腺がん由来のMyc-Cap細胞を皮下移植したマウスを用いた。細胞の5-ALA前処理+X線照射群では、1mMの5-ALAで4時間処理した後にX線を照射した。移植腫瘍マウスは、6匹ずつ、4群(対照群、5-ALA単独投与群、X線単独照射群、5-ALA前処理+X線照射群)に振り分け、5-ALA前処理+X線照射群では、5-ALA (30 mg/kg) を投与した3時間後に、2Gy/回 x 10日の照射を行った。低酸素環境の誘導には、塩化コバルト(100μM)処理や1% 酸素濃度での培養を行った。放射線感受性の他、ミトコンドリアのROS生成(MitoSOX, SiDMA)、膜電位(JC-1アッセイ)、酸素消費速度(OCR)・ATP 産生・細胞外酸性化速度(ECAR)(細胞外フラックスアナライザー)などを解析した。

結果

PC-3細胞とDU-145細胞で、5-ALA投与によりミトコンドリア内にPpIXの集積を認めた。5-ALA前処理+X線照射群では、X線単独照射群に比べ、放射線感受性の亢進が見られ、アポトーシス細胞の割合も高かった。ROS阻害剤で前処理を行うと細胞生存率が回復したことから、5-ALAによる放射線増感作用は、主にROSの生成によることが示唆された。5-ALA前処理+X線照射群では、照射直後からROSが大量に検出され、ミトコンドリアの膜電位、OCR、ATP 産生はいずれも低下していた。
続いて、低酸素環境下でも同様の現象が見られるかを調べた。低酸素環境下では、X線単独照射群の放射線感受性が低下したが、5-ALA前処理+X線照射群で放射線感受性の亢進が保たれていた。ROSを阻害すると生存率は回復した。低酸素環境下における5-ALA前処理+X線照射群では、一重項酸素よりもスーパーオキシドが主に生成され、ミトコンドリアの膜電位は低下し、HIF-1αに加え、GLUT1、HK2、PDK1などの解糖系酵素の発現が著しく抑制されていた。OCRおよびATP産生の著しい減少が見られ、解糖活性の指標であるECARも低下していた。これらのことから、がん細胞が解糖系経路に代謝をスイッチする(Warburg効果)中、低酸素環境下で5-ALA前処理+X線照射を行うと、ミトコンドリア代謝が静止状態に入ることが示唆された。この細胞群では、がん幹細胞数が著しく減少し、ミトコンドリア内にFe2+が蓄積していた。ミトコンドリアでのROS生成が鉄キレート剤の投与によって抑制されたため、Fe2+蓄積がROS生成に寄与している可能性が示唆された。
in vivoの系では、Myc-Cap細胞の移植腫瘍マウスの5-ALA前処理+X線照射群において、X線単独照射群に比べて、有意に高い腫瘍縮小効果が見られた。5-ALA前処理+X線照射群の腫瘍の免疫組織化学的解析では、Ki-67陽性細胞の減少、4HNE陽性細胞の著しい増加、cleaved caspase 3陽性細胞の増加を認め、ROS生成の増加を介してアポトーシスが誘導されていることが示された。

結論

今回の研究により、前立腺がんにおいて、5-ALAを併用することが放射線治療の効果を高めることができる可能性が示された。

コメント

正常細胞とがん細胞の代謝の違いを踏まえた治療戦略であり、今後、正常細胞が傷害から保護されることの検証、そして、臨床試験での検証が必要になる。

細谷紀子・東京大学(生物部会・学術WG)

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