No.265
多発肝転移に対する緩和照射:73例の遡及的解析
Palliative radiotherapy for multiple liver metastases: a retrospective analysis of 73 cases
Ito K, Ogoshi Y, Shimizuguchi T.
Jpn J Clin Oncol. 2022;52(7):779-784.
背景
多発肝転移に対する全肝照射は、転移による症状および肝機能異常を改善することが報告されているが、本邦では多発肝転移を有する患者に対して全肝照射を実施することは稀である。本研究の目的は、日本人の多発肝転移患者に対する緩和的放射線治療の有効性と安全性を明らかにすることである。
方法
2014年12月から2021年4月に都立駒込病院において、多発肝転移に対して緩和照射が施行された患者を遡及的に解析した。照射は自由呼吸下に2-4門の三次元原体照射を施行した。CTVは症状の原因となる腫瘍を含むセグメントと定義し、ほとんどの症例で肝臓の大部分が含まれた。 処方線量は8 Gyの単回照射で、PTV D95% ≧7 Gyを線量制約とした。評価項目は全生存期間、疼痛緩和効果、各種肝機能検査値(AST,ALT,LDH,ALP,γ-GTP)、有害事象であった。疼痛評価はInternational Consensus Pain Response Endpoints (Chow E, Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2012)にもとづいて行った。
結果
対象期間に全肝照射を施行した症例は71人73症例であった。CTVの中央値は2118 ml(範囲133-7867 ml)、総肝体積の100%(範囲16.3-100%)、44病変でCTVは全肝であった。 照射の契機となった症状は腹痛が49例(67%)と最多であった。
経過観察期間の中央値は6週間(範囲:0-39週間)で1ヶ月全生存率は61.8%、生存期間中央値は7週間であった。有痛性転移を認めた49例のうち、1ヵ月後に評価可能であった28例の疼痛緩和率は64%であった。各種肝機能検査値は照射時と比較して照射後2-4週で有意に改善した。
有害事象はペインプレアを5例、腫瘍崩壊症候群を3例に認めたが、Radiation-induced liver disease (RILD)を含め、その他の重篤な有害事象は認められなかった。Child分類Cの6例においてもGrade2の嘔気が1例、腫瘍崩壊症候群が1例と安全に照射が可能であった。全肝照射を2回施行した2例においても重篤な有害事象は認められなかった。
結論
本研究は、本邦で初めて多発肝転移患者に対する全肝照射の有効性と安全性を検討した。8 Gyの全肝照射が、疼痛緩和及び肝機能異常の改善に有効であり、有害事象も低率であった。これらの知見は、将来、本邦での全肝照射の普及を促進するものと考える。
コメント
- 米国放射線腫瘍学会の小委員会であるLiver Metastases Consensus Groupによるレビューで有症状の多発肝転移に対する全肝照射の有用性が検討され、疼痛緩和に関しては55-80%の症例で症状改善に寄与し、有害事象は低率であることが報告されている(Høyer M, et al. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2012)。
- 本研究により、8 Gyの緩和照射が日本人の多発肝転移症例においても、疼痛緩和に有効であり有害事象も低率であることが示された。さらに、Child分類Cの肝予備能不良例においても安全に施行可能であったことを示す貴重な報告である。
- 本邦で全肝照射の認知度は高くないが、患者がこの有効な治療の恩恵を受けるために今後 本邦での認知度が高まることが望まれる。
- なお、全肝照射では悪心が高頻度に認められる制吐剤の予防投薬が必須である。過去の諸外国の臨床試験ではグラニセトロンやデキサメサゾンの予防投与が行われている。
- 多発肝転移に対して8 Gy単回照射の全肝照射の有効性を検証するCanadian Cancer Trials Groupによる第三相ランダム化比較試験の結果が2022年12月のASCO-GIで報告された。主要評価項目である1ヶ月後の疼痛改善率は、RT 群 で67%とBSC 群の 22%と比較して良好な疼痛緩和効果が認められた(p=0.004)。RT群でGrade ≧3の有害事象はほとんど認められず、3ヶ月生存率は、RT群で改善する傾向が見られた(51% vs 33%, p=0.07)。(NCT 02511522)。
PMID: 35396600
広島大学・今野 伸樹、荒尾市民病院・斉藤哲雄、聖マリアンナ医科大学・中村直樹