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公益社団法人日本放射線腫瘍学会

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No.285
胃癌治療ガイドライン第7版における止血照射のクリニカル・クエスチョン新設と重要な役割を果たしたJROSG 17-3研究

Saito T. et al. Treatment response after palliative radiotherapy for bleeding gastric cancer: a multicenter prospective observational study (JROSG 17-3). Gastric Cancer 25, 411-421, 2022.

胃癌治療ガイドラインに新設

2025年3月に胃癌治療ガイドライン医師用第7版(日本胃癌学会編)が改訂発行されました。この改訂では、新たに「CQ15-2: 出血性進行胃癌の緩和的治療において放射線照射は推奨されるか?」というクリニカル・クエスチョン(CQ)が設定され、「治癒不能の出血性進行胃癌症例に対して、全身状態と予後を考慮して、止血目的に放射線治療を実施することを弱く推奨する。」と明記されました。この根拠となったのがJROSG 17-3研究です。

JROSG 17-3の背景と目的

進行胃癌における出血性貧血は輸血や入院管理を必要とすることがあり、生活の質を大きく低下させます。これまで止血照射は一部施設で行われていましたが、小規模な単施設、後方視的研究しか存在せず、効果や安全性に関するエビデンスに乏しい状況でした。このような背景のもと、JROSG 17-3は放射線治療による止血効果を前向き多施設で評価することにより止血照射の意義を明らかにし、普及と標準化に繋げることを目的に実施されました。

JROSG 17-3の概要とポイント

日本放射線腫瘍学研究機構(JROSG)の緩和グループが中心となって行われた多施設共同前向き観察研究で、コロナ禍にも関わらず、全国15施設55例が登録されました。特筆すべき点は、それまで曖昧であった「止血」の定義をCTCAE Grade ≥3の貧血がGrade <3になる等に明確に設定されたことや、止血・再出血の経時的な評価が行われたことです。43例が死亡まで追跡されています。線量分割は8 Gy/1回、20 Gy/5回、30 Gy/10回が頻用されました。主要評価項目の4週後のITT(Intention to treat:全登録55例を母数)での奏効率は約53%でした。一方、PP(Per Protocol:評価可能例を母数)奏効率は2週後の時点で約56%と早期より効果が現れ、8週後には生存例の90%に達しました。重篤な有害事象は極めて少なく、Grade 3の吐き気が1例のみでした。また、本研究の副次解析結果を報告した論文(Kawamoto T, et al. Clin Oncol 2022)では、息切れ・痛み・ストレスなどの症状緩和も認めること、さらには、分割照射より単回照射で疲れ・ストレスの緩和効果が高いことも示唆されました。

まとめ

胃癌治療ガイドラインの作成委員会には放射線治療専門医は入っていません。JROSG 17-3の成果が中立的に高く評価され治療指針に採用されたことは、我が国の放射線治療にとって画期的な出来事であり、放射線治療医の活動の場が更に広がったという点でもまた意義深いものと考えます。これを機に、出血性進行胃癌症例に対する放射線治療の認知度が上がり、適切に実施されることが望まれます。

小杉崇、斉藤哲雄、塩山善之(緩和的放射線治療委員会)

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