JASTRO

公益社団法人日本放射線腫瘍学会

JASTRO Japanese Society for Radiation Oncology

ホーム > 学会誌・刊行物 > Journal Club > チトクロームCオキシダーゼ4-1(COX4-1)は放射線抵抗性膠芽腫(GBM)においてミトコンドリア超複合体の形成を促進し、活性酸素種の産生を制限する

No.286
チトクロームCオキシダーゼ4-1(COX4-1)は放射線抵抗性膠芽腫(GBM)においてミトコンドリア超複合体の形成を促進し、活性酸素種の産生を制限する

COX4-1 promotes mitochondrial supercomplex assembly and limits reactive oxide species production in radioresistant GBM

Oliva CR, Ali MY, Flor S, Griguer CE.
Cell Stress, 2022, 6(4): 45 – 57, Doi: 10.15698/cst2022.04.266

この研究のポイント

膠芽腫(Glioblastoma, GBM)において放射線治療は有力な治療法であるが、放射線治療後の再発による新たな抵抗性細胞の出現は重大な臨床上の問題である。本研究において、GBM細胞を分割照射するとミトコンドリア電子伝達系複合体IVチトクロームCオキシダーゼ(CcO)の活性化を起こし、この活性化機構にはチトクロームCオキシダーゼ4(COX4)のサブタイプのCOX4-2からCOX4-1への発現のスイッチングが関連することを明らかにした。さらにこのCcO活性上昇は*ミトコンドリア超複合体(Mitochondrial Supercomplex: SC)の形成亢進を引き起こし、ミトコンドリア由来の活性酸素生成が抑制することで放射線抵抗性を獲得することを明らかにした。

(*ミトコンドリア超複合体(SC)とは呼吸超複合体とも呼ばれ、ミトコンドリア内の電子伝達系複合体(複合体I、III、IVなど)が更に会合・結合して形成される巨大なタンパク質の集合体(レスピラトソーム)のことである。しかし、このSC形成の生理的役割については現在までのところ一致した見解は得られていないが、SC形成亢進が酸化的リン酸化によるエネルギー産生の向上や活性酸素遊離の低下などの役割を果す可能性が示されている)

本研究の概要

近年、GBMの放射線抵抗性の獲得の一因として、ミトコンドリアの電子伝達系の役割が注目されていることから、本研究では放射線感受性の親細胞株および放射線抵抗性を獲得した細胞の代謝表現型とSC形成について調べた。さらに、このSC形成とGBM細胞における放射線抵抗性の獲得を制御する分子機構について検討した。

  1. GBM由来U251細胞およびGBM患者由来の異種移植腫瘍(D456およびJx39)を、5 Gyの単回放射線を週1回で5週間照射し、25 Gyの積算線量に曝すことにより、放射線耐性の同系GBM細胞株(U251-RR, D456-RRおよびJx39-RR)を作製した。
  2. 全ての放射線抵抗株で、CcO活性化と細胞内酸化還元状態に感受性であるCOX4-1の高発現、ミトコンドリアの酸素消費率(OCR)、ATP産生量は親株と比較して有意に増強しており、放射線で誘導されるDNA2本鎖切断、グルコース取込と乳酸産生は有意に低下していた。
  3. タンパク質複合体を非変性条件で分離可能なブルーネイティブ電気泳動法を用いてSC形成を検討したところ、放射線抵抗性株では複合体 IVの二量体、複合体III2-複合体IVn、複合体I-複合体CIII3―複合体IVnのミトコンドリア超複合体の形成がみられたが、感受性株ではミトコンドリア超複合体形成は殆ど無く、複合体モノマーが主であった。ミトコンドリア由来の.O2-生成は抵抗性株では感受性株より有意に低いものであった。
  4. 放射線感受性株にCOX4-1を過剰発現させるとSC形成が誘導されると共に.O2-生成は抑制され、放射線抵抗性を示すようになった。一方、放射線抵抗性株にCOX4-1を欠失させるとSC形成が抑制されると共に.O2-生成は増大し、放射線感受性を示すようになった。
  5. GBM患者の組織試料でCcO活性とCitrate Synthase(CS)活性の比(CcO/CS)ならびにCOX4-1発現量とCS発現量の比(COX4-1/CS)を調べたところ、これらの値が大きいほど、患者の生存時間が短いことが示された。さらに高CcO活性の患者はSC形成も多い傾向がある事も示された。

結論

本研究の実験で、GBM細胞のCOX4-1の発現を増加または減少させることで、SCが形成ならびに・O2-生成に影響を与え、それぞれ放射線抵抗性または放射線感受性へ変換させうることを示した。この結果は分割照射で誘導されるCOX4-1の高発現がSC形成を促進し、活性酸素の産生を制御することで放射線抵抗性を獲得する事を強く示しており、放射線抵抗性GBM細胞に対する新たな特異的標的分子を提示するものである。

稲波 修・北海道大学(生物部会・学術WG)

top