No.290
局所進行子宮頸癌患者における再発および生存予測のための循環腫瘍DNAの超高感度検出と追跡:第III相CALLA試験解析
Ultrasensitive detection and tracking of circulating tumor DNA to predict relapse and survival in patients with locally advanced cervical cancer: phase III CALLA trial analyses.
Mayadev J, Vázquez Limón JC, Ramírez Godinez FJ, Leiva M, Cetina-Pérez LDC, Varga S, Molina Alavez A, Alarcon-Rozas AE, Valdiviezo N, Acevedo C, Figueroa A, Santini A, Vera L, Rey F, Kahán Z, Galaz P, Meléndez Mier G, Wu X, Mandai M, Shapira-Frommer R, Estevez-Diz MDP, Limaye S, Xin W, Dry H, Broggi MAS, Yuan DY, Stewart RA, Monk
BJ. Ann Oncol. 2025 Sep;36(9):1047-1057. doi: 10.1016/j.annonc.2025.05.533.
この研究のポイント
本研究では局所進行子宮頸がん患者を対象としたCALLA第III相試験において、超高感度の循環腫瘍DNA(ctDNA)および循環ヒトパピローマウイルスDNA(cHPV DNA)を調べ、再発や生存を予測できるかについて検証した。特に超高感度のctDNA検出は予測精度が高く有望な指標で、治療後に陰性であれば経過良好、陽性が続けば追加治療を検討する指標となる可能性がある。
概要
局所進行子宮頸癌は、標準治療である化学放射線療法(CRT)後も30〜50%が再発し、予後予測のバイオマーカーが求められている。第III相CALLA試験では、CRTにデュルバルマブを併用しても無増悪生存期間(PFS)の改善は得られなかった。本研究は、CALLA試験に参加した患者対象集団を用い、超高感度循環腫瘍DNA(ctDNA)および循環ヒトパピローマウイルスDNA(cHPV DNA)の検出と治療転帰(PFS・OS)との関連を探索的に解析した。
対象
FIGO2009でIB2〜IIB期リンパ節陽性、またはIIIA〜IVA期の患者で、デュルバルマブ+CRT群またはCRT単独群に1:1で無作為化された。腫瘍組織から最大1800個の体細胞変異を同定し、患者ごとに作成したNeXT Personal®パネルを用いて血中ctDNAを測定した。測定タイミングは治療前、CRT終了直後、治療3か月後であった。
結果
ベースラインで98.9%(183/185)の患者からctDNAが検出された。初回測定時のctDNA量が高い患者は、低い患者に比べてPFS・OSともに不良であり、病期やリンパ節転移の有無とは独立した予後因子であった。CRT終了直後のctDNA陽性は臨床的再発よりも中央値で164日(約5.5か月)早く検出され、治療後の残存病変を反映すると考えられた。治療3か月後においてctDNAが検出されなかった患者は、その後の再発・死亡リスクが大幅に低く、陰性的中率は95%に達した。cHPV DNAも高率に検出されたが、ctDNAの方が再発検出や予後予測の精度において優れていた。
結論
局所進行子宮頸癌において超高感度ctDNA検出が再発および生存の独立した予後マーカーとなり得ることを示した。特に治療終了後のctDNA陰性は極めて良好な予後を示し、フォローアップ頻度の低減や過剰検査回避につながる可能性がある。一方で、ctDNAが持続的に陽性の場合は再発高リスク群と考えられ、追加治療や厳格な経過観察の対象となり得る。この解析は、ctDNAを用いた分子学的モニタリングが臨床実装されれば、患者ごとにリスクに応じた個別化フォローアップや治療戦略の最適化に貢献できることを示唆している。
コメント
この本体研究であるCALLA試験は、PACIFIC試験と同様にCRT後の免疫チェックポイント阻害薬の上乗せ効果が期待されたがnegativeな結果となった試験である。その副次的研究として、ctDNAを用いたバイオマーカー研究が行われた。この研究では血液だけでなく腫瘍検体を組み合わせた「腫瘍情報あり(tumor-informed)ctDNA」が採用されており、コストや手間はかかるものの、ベースラインで98.9%のctDNA検出率が得られ、従来の腫瘍マーカーに比べて非常に優秀なバイオマーカーとなる可能性があるが、治療の個別化に用いるためにはまだ課題もあるように思われる。
例えば、両群(CRT単独群/CRT+ICI群)とも、ctDNA低値群は高値群より予後が良好であったが、ICIの上乗せ効果はctDNA低値群でも高値群でも明確な差は見られなかったと報告されており、どのような群にICIを併用すべきか予測が難しい事を示している。
現在、Keynote-A18試験の結果から実臨床ではCRTにPembrolizumabの併用が行われるようになったが、どのような症例に併用すべきか議論となっている。その一助として、このようなバイオマーカー研究が貢献できる事を期待している。
染谷 正則 札幌医科大学(生物部会・学術WG)