No.291
Thyroidectomy with or without postoperative radioiodine for patients with low-risk differentiated thyroid cancer in the UK (IoN): a randomised, multicentre, non-inferiority trial
Lancet. 2025;406:52-62.
doi:10.1016/S0140-6736(25)00629-4
概要
目的: 本試験(IoN trial)は、低リスク分化型甲状腺癌(DTC)における術後放射性ヨウ素(RAI)治療の省略が、再発予防の点で非劣性であるかを検証することを目的とした。
デザインと対象: 英国33施設で実施された多施設共同、非盲検、無作為化、非劣性試験。適格基準は、18歳以上、DTC(papillary carcinoma または follicular carcinoma に限り、神経内分泌分化や小細胞癌の組織像を有する例は除外された。)の全摘後、pT1-3、N0-1a、R0切除であり、遠隔転移を認めない症例。合計504例が登録され、251例がRAI省略群、253例がRAI群(1.1 GBq = 30mCi)に割り付けられた。
介入: 手術は甲状腺全摘。RAI省略群では追加治療は行わなかった。RAI群では1.1 GBqのI-131治療が TSH刺激下(方法の詳細は記載なし)で実施された。その後、両群ともに甲状腺ホルモン補充療法(TSH抑制療法)が行われた。
主要評価項目: 5年無再発生存率(RFS, recurrence-free survival)。副次評価項目には全生存率(OS)、病勢再発の部位、治療関連有害事象(AE)、QOLが含まれた。
結果
追跡期間中央値は5.9年((IQR 5·6-8·6年)。5年RFSはRAI省略群で97.9%、RAI群で96.3%であり、絶対差0.5%で非劣性が確認された。再発は合計17例に発生し、RAI省略群8例、RAI群9例であった。再発部位は局所再発(4例)とリンパ節転移(11例)が大部分で、遠隔転移は稀(2例)であった。ITT解析に加えてper-protocol解析でも結果は同様であり、いずれも非劣性が統計学的に担保された。全生存率(OS)については両群で差は認められなかった。
安全性: 治療関連有害事象の頻度は両群で類似しており、重篤な有害事象は稀であった。RAI群で特有の有害事象として一過性の唾液腺障害や口腔乾燥が報告されたが、大部分は軽度で可逆的であった。また、QOLについても両群で有意な差は認められなかった。
サブグループ解析と補足
サブグループ解析では、年齢、性別、pT分類(pT1 vs pT2 vs pT3)、リンパ節転移(N0 vs N1a)の有無にかかわらず、RFSにおいてRAI省略群と施行群で有意な差は認められなかった。ただし、pT3 または pT3a 症例では 46例中4例(9%)に再発があり、pT1-2の458例中13例(3%)よりも高率であった。またN1a症例では 47例中6例(13%)に再発があり、N0/Nx の457例中11例(2%)よりも高率であった。特に、pT3やN1aの患者は少数であったため、統計学的な確実性には限界がある。これらの群については、慎重に症例ごとのリスク評価を行う必要があると著者らは結論している。
また、血清サイログロブリン(Tg)や抗Tg抗体の動態についても解析され、RAI施行の有無で明確な差は見られなかった。
結論
低リスクDTC患者において、甲状腺全摘後のRAIアブレーションを省略しても再発抑制効果において非劣性であり、安全性にも差はなかった。本試験により、低リスク症例ではRAI省略が推奨される根拠がさらに強化された。
コメント
IoN試験はESTIMABL2試験に続き、低リスクDTCにおけるRAI省略の有効性を確認した重要なランダム化比較試験である。両試験を合わせると、数千例規模のエビデンスとなり、欧州を中心にガイドライン改訂の動きを加速させる可能性が高い。ESTIMABL2は低リスクのみを対象にしているのに対し、本試験はpT3やN1aといった中リスク症例も含めており、より幅広い患者集団に適用可能性を示した点が特徴である。
ただし、日本においては、低リスクDTCではそもそも葉切除や経過観察とする症例が多く、RAI治療の対象とならないため、本試験の直接的な臨床的インパクトは限定的かもしれない。一方で、pT3やN1aといった中リスク例については、まだ症例数が限られており、追加のデータ蓄積が必要である。また、高リスク症例には適応できるエビデンスではなく、過度の一般化は避けるべきである。
臨床的には、患者の被曝低減、入院隔離の回避、医療コスト削減などの観点からもRAI省略の意義は大きい。今後は本邦における実臨床データや、アジア人集団を対象とした前向き研究も期待される。
がん治療推進委員会 RI内用療法小委員会