No.292
Radiotherapy-Induced Astrocyte Senescence Promotes an Immunosuppressive Microenvironment in Glioblastoma to Facilitate Tumor Regrowth
Ji J, Ding K, Cheng B, Zhang X, Luo T, Huang B, Yu H, Chen Y, Xu X, Lin H, Zhou J, Wang T, Jin M, Liu A, Yan D, Liu F, Wang C, Chen J, Yan F, Wang L, Zhang J, Yan S, Wang J, Li X, Chen G.
Adv Sci (Weinh). 2024 Apr;11(15):e2304609. doi: 10.1002/advs.202304609.
この研究のポイント
細胞老化は細胞周期の停止という不可逆的な状態であり、放射線や化学療法によって引き起こされる。治療誘発性老化は、腫瘍抑制メカニズムと考えられてきたが、老化間質細胞が傍分泌依存的に隣接する腫瘍細胞を支持できることが知られている。本研究では頭蓋放射線照射後、老化アストロサイトがケモカイン分泌によって炎症性骨髄細胞を集積させて、Glioblastoma(GBM)の再増殖を促進することが明らかになった。放射線治療後に老化細胞除去剤を使用することで、前臨床モデルにおいて生存期間が大幅に延長された。
概要
本研究では放射線(IR)誘発脳変化がGBM増殖に影響を及ぼすかどうかを検証するため、C57BL/6Jマウスの全脳に2 Gyの線量を5日間連続で前照射し、その後GBM株であるGL261細胞を照射後7、14、28、56日目に頭蓋内に移植した。照射後脳で老化マーカーP16 INK4Aの発現がピークに達する28日目に移植したマウスの生存期間が最短であった。生体内でP16 INK4A + SnC(老化細胞)を同定、追跡、選択的に死滅させるCDKN2A-DTRマウスを用いて、IR後Diphtheria Toxinの併用により、これらのSnCを選択的に除去すると、GL261細胞を担持するマウスの生存期間を延長した。snRNA-seqを用いて照射マウスの脳の細胞構成とトランスクリプトームを、非照射マウスと比較すると、老化マーカーのP16 INK4A+とP21 CIP1+のSnCの増加総数がアストロサイトで最多となった。
SnCがGBM進行に及ぼす分子メカニズムを解明するため、正常アストロサイト (Nor-As)および SnAs 由来の Culture medium (CM) を用いてサイトカイン分析比較を行ったところ、CXCL12、G-CSF、TNF-α、sICAM-1、およびIL-6がSnAsで上昇したが、SnAs-CM と共培養してもGBM細胞4株の増殖に変化はなく、SnAs 由来の SASP 因子が間接的に腫瘍を促進することを示唆した。 GL261 細胞を Nor-As または Sen-As-CM と共培養し、上清のサイトカインアレイ解析を行うとCXCL1 が最も上昇した。CXCL1 は、好中球、単球、マクロファージなどの CXCR2 陽性骨髄性炎症細胞のリクルートや、局所血管新生の誘導に重要な役割を果たす。GL261 細胞を前述5種類のサイトカインで処理し、ELISA で CXCL1 レベルを調べ、TNF-αが最も顕著な上昇効果を示した。GL261またはG422-sh- CXCL1細胞株を樹立し、放射線照射済みマウス脳に移植した。 GBM細胞におけるCXCL1のノックダウンはSnAsの腫瘍形成促進効果を無効化し、GL261またはG422細胞を有する前照射マウスの生存期間を延長した。さらに SnC を除去する能力を示している ABT263 1)または dasatinib 2)+ quercetin 3)(D+Q)を経口投与すると、照射前マウスの脳から SnC が有意に除去され、腫瘍の成長が遅延した。GL261、GL422細胞を有する放射線照射前マウスの脳内で、好中球、MDSC4)、マクロファージなどの骨髄性炎症細胞の動員が促進され、この動員は、ABT263またはD+Q処理あるいはCXCL1のノックダウンに応じて減少した。
結論
IR後の薬剤によるSnCの選択的除去は移植GBM細胞4株の再発を遅らせることが示唆され、GBMに対する追加治療レジメンとしてセノリティック療法5)を用いることができる可能性が示唆される。
感想
放射線照射後、細胞老化を起こしたアストロサイトがGBM再発の起源であることに驚いた。
語注
- 1)ABT263(ナビトクラックス):がん治療薬として開発された経口のBcl-2ファミリータンパク質阻害剤(Bcl-2阻害薬)で血液がん、一部固形がんの臨床試験で用いられる。老化細胞だけがアポトーシスを起こす。
- 2)dasatinib:慢性骨髄性白血病(CML)やフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病(Ph+ALL)の治療に使われる分子標的薬(抗がん剤)で、チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)に分類される。白血病細胞内でATPと結合するBCR-ABL酵素の代わりに自身が結合し、細胞増殖シグナルを遮断する。
- 3)quercetin:タマネギやリンゴなどの植物に含まれる天然のポリフェノール(フラボノイド)の一種。ケルセチンは、老化細胞だけにアポトーシスを誘導して取り除く働きがある。
- 4)MDSC (Myeloid-Derived Suppressor Cells):骨髄由来抑制細胞とは、がんなどで増加し、免疫細胞(T細胞など)の働きを強力に抑制して、免疫の力でがんを攻撃するのを妨げる未熟な骨髄系細胞集団のこと
- 5)セノリテッィク療法:「老化細胞」を死滅させて取り除くことで、加齢に伴う疾患の治療や、健康寿命の延伸を目指す新しい治療法のこと
近藤 夏子(生物部会・学術WG)