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公益社団法人日本放射線腫瘍学会

JASTRO Japanese Society for Radiation Oncology

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No.293
初代ヒト気管支上皮オルガノイドに対する陽子線FLASH照射の影響

Effect of FLASH proton therapy on primary bronchial epithelial cell organoids.

Kuipers ME, van Liefferinge F, van der Wal E, Rovituso M, Slats AM, Hiemstra PS, Van Doorn-Wink KCJ.

Clin Transl Radiat Oncol. 2025 Jan 29;52:100927. doi: 10.1016/j.ctro.2025.100927.

この研究のポイント

FLASH照射1)は「正常組織への影響を低下させる革新的な照射技術」として注目されているが、本研究では慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者由来の気管支上皮オルガノイド2)を用いて検証した結果、通常線量率照射と比べて明確な正常組織温存効果を示さなかった。FLASH効果は条件依存的であり、臨床応用には慎重な検討が必要であることを示した重要な研究である。

本研究の概要

FLASH照射とは、超高線量率照射のことであり、腫瘍制御を維持したまま正常組織障害を軽減する「FLASH効果」という現象が報告されてきた。電子線や光子線のみならず、近年では陽子線や炭素イオン線においても同様の効果が示され、臨床応用への期待が高まっている。一方で、FLASH効果の再現性や成立条件、評価指標については未だ議論が多く、特にヒト由来モデルでの検証は限られている。

本研究では、放射線肺障害のリスクが高いCOPD患者から採取した初代ヒト気管支上皮細胞を用い、三次元オルガノイド培養系を構築した点が特徴である。気管支上皮オルガノイドは、基底細胞を含む前駆細胞3)集団を内包しており、照射後の組織再生能を反映するモデルとして臨床的意義が高い。通常線量率(15 Gy/分)と、FLASH条件(40 Gy/秒)の陽子線を2 Gy、8 Gy照射し、比較検討した。照射野サイズ18 mm、エントランスでの照射が使用された。

DNA損傷評価では、両照射法とも線量依存的なγH2AX4)フォーカス数の増加が認められたが、両照射法の間に有意な差は認められず。照射24時間後には、DNA損傷は概ね修復されていた。

遺伝子発現解析(RNAシーケンス)では、DNA損傷応答やアポトーシス関連遺伝子の発現上昇、細胞増殖関連遺伝子の低下といった放射線照射に典型的な変化を認めたが、FLASH特異的な転写変化などは検出されず。照射条件よりもドナー間の個体差が大きく、ヒト由来モデルにおける生物学的多様性の影響が示唆された。

一方で、オルガノイド形成能アッセイにおいて、照射後24時間で、両照射法ともに線量依存的な形成能低下が認められ、照射後7日目に評価した低線量(2 Gy)条件では、FLASH照射で有意にオルガノイド形成能が低下していた。つまり、FLASH照射が気道上皮前駆細胞の再生能を温存しない可能性を示唆する結果であった。

著者らは、FLASH効果が認められなかった理由として、線量率がFLASH効果の閾値に達していなかった可能性、照射時の酸素環境や温度条件が制御されていない点、オルガノイドが上皮細胞単独の系であり免疫細胞や間質細胞との相互作用を含まない点などを挙げている。FLASH効果は、組織構造や微小環境、酸素分圧に依存して発現する可能性が指摘されており、単純化されたin vitro系では十分に再現されない可能性も考えられる。

COPD患者由来の初代ヒト気道上皮オルガノイドを用いた本研究では、両照射法の間に明確な差異は認められなかった。今後、複数の肺構成細胞を含むより高度なモデル、酸素分圧や機械的刺激を考慮した条件設定、ならびに患者特異的アプローチを取り入れることで、動物モデルに依存しないFLASH研究の発展が期待され、臨床応用への道が開かれる可能性がある。

注釈

  • 1)FLASH照射:40 Gy/秒以上の超高線量率で行う放射線照射法。
  • 2)オルガノイド:幹細胞・前駆細胞から形成される三次元培養構造体で、臓器の性質を部分的に再現する
  • 3)前駆細胞:自己複製能と分化能を持ち、組織再生に重要な細胞集団。
  • 4)γH2AX:DNA二本鎖切断の指標として用いられるリン酸化ヒストンH2AX。

コメント

本研究は、ヒト初代細胞由来オルガノイドという臨床的妥当性の高いモデルを用いながら、FLASH効果が必ずしも認められないことを示した点で重要である。この背景には、様々な要因が考えられる。第一に、評価方法が前駆細胞の単細胞レベルでの再生能である点である。組織保護を指標としていない点、またFLASH効果が組織構造や微小環境、細胞間相互作用を介して発現するのであれば、この評価系では効果が減弱もしくは逆転する可能性がある。第二に、線量率が40 Gy/s固定で、閾値を十分に超えていない、また線量が足りなかった可能性がある。リスキャンの有無やパルス幅など細かい照射条件・時間構造が明確に示されておらず、酸素環境・温度条件が制御されていない点も影響したかもしれない。

本研究は同時に、FLASH効果を「どの生物学的レベルで評価すべきか」という本質的課題を提起している。オルガノイドはin vivoを模倣したものであり、非常に重要な実験手法である。FLASHの臨床応用に向けては、効果の成立条件と限界を冷静に整理していく姿勢が不可欠である。特にESTROでは、こういったネガティブデータも重要視されており、将来的な臨床応用に役立つことが期待される。

岩田 宏満・名古屋市立大学医学部附属西部医療センター(生物部会・学術WG)

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