No.295
TP53は、正常細胞および腫瘍細胞における放射線治療の分割線量に対する感受性を調節する
TP53 modulates radiotherapy fraction size sensitivity in normal and malignant cells.
Anbalagan S, Ström C, Downs JA, Jeggo PA, McBay D, Wilkins A, Rothkamm K, Harrington KJ, Yarnold JR, Somaiah N.
Sci Rep. 2021 Mar 29;11(1):7119. doi: 10.1038/s41598-021-86681-6.
この研究のポイント
総線量同一で単回照射した場合と数時間以上の間隔を空けて分割照射した場合を比較すると、分割照射した方が生存率が増す。亜致死損傷回復(Sublethal damage recovery; SLD回復)として知られるこの現象がp53に依存した反応であり、その回復におけるDNA修復が非相同末端結合(Non-homologous end joining; NHEJ)によることを示した重要な研究である。
本研究の概要
DNA二本鎖切断修復機構が正常に機能し、野生型p53を有する正常なヒト初代線維芽細胞を、患者の反応が遅い正常組織細胞の代表として用いた。S009初代乳房皮膚線維芽細胞において、放射線線量を8時間間隔で4 Gyずつ2回に分けて照射した場合、8 Gyの単回急性照射と比較して有意な分割線量回復が認められ、その回復率(Recovery factor; RF)は5 ± 2.51であった。S009 細胞は継代回数が限られているため、この分割線量による回復を、特性が十分に解明されている不死化初代線維芽細胞1BR hTERTで確認したところ、同様に3.5 ± 1.29と高いRFを示した。
一方、p53を欠損するリー・フラウメニ症候群由来MDAH041細胞では、有意な線量分割による回復は観察されなかった。照射後、MDAH041細胞はG1/Sチェックポイント制御の喪失と一致して、G2/M期停止を示した。さらなる検証として、1BR hTERT細胞をsiRNAでp53発現をノックダウンした結果、未処理対照群の 4.09 ± 0.38に対し、2.44 ± 1.17 とRFが低下した。
次に、分割線量感受性に対するNHEJ修復の影響を明らかにすることを目的として、1BR hTERT細胞およびそのNHEJ欠損株411BR hTERT(DNAリガーゼⅣ欠損株) を用いた。親株の 4.38 ± 1.31に対し、1.33 ± 0.32 とRFが低下した。
腫瘍株においては、p53野生型細胞である LNCaP および A2780 WTは、それぞれ3.1±1.30 および 6.26±3.54のRFを示したのに対し、p53欠損の PC3 およびp53をヒトパピローマウイルス由来E6で抑制した A2780/E6 細胞では、それぞれ1.20 ± 0.60 および 1.82 ± 0.3とRFが有意に減少した。照射後、p53野生株では主に細胞周期のG1期に留まっていたのに対し、p53不活性細胞(PC3 および A2780/E6)はS/G2 期に偏っていた。
腫瘍モデルにおいてNHEJ欠損の影響を調べることを目的として、DNA-PKcs正常グリオーマ株M059Kと欠損株M059Jを用いた結果、いずれの細胞株も有意な分割線量回復は示さなかった。DNA-PKcs正常細胞と DNA-PKcs欠損細胞の間に回復の差異が認められなかったのは、両細胞株がp53変異株であることに起因していると考えられた。これらの結果は、p53変異を有する腫瘍細胞は、NHEJ が正常であるか否かにかかわらず、分割線量に対して感受性が低い可能性が高いことを示している。
コメント
本研究は、正常組織と腫瘍組織のSLD回復の違いに関わる遺伝的背景として、p53が重要な役割を果たしていることを初めて示した画期的な論文である。腫瘍抑制因子として知られるTP53は、ヒトのがんにおいて最も高頻度に変異する遺伝子であり、p53欠損腫瘍細胞では、p53によるゲノム監視機構の破綻がSLD回復の低下をもたらしていると考えられる。一方で、p53野生型の腫瘍細胞に対しては線量配分に配慮が必要なことを意味する。特に著者らが補足表S1に示したように、p53変異頻度の分布が腫瘍タイプの既知の平均分割線量感受性(average fraction size sensitivity)を反映していることは注目に値する。前立腺癌および乳癌は、p53変異率が最も低く、分割線量に対する感受性が最も高いことは、これらのがんが小線量分割では正常組織と同様に保護されてしまうこと、および寡分割照射が適していることを意味し、がんゲノム医療における個別化放射線治療の線量配分において重要な示唆を与えるものである。
森田 明典・徳島大学大学院医歯薬学研究部(生物部会・学術WG)