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公益社団法人日本放射線腫瘍学会

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No.217
手術もしくは定位手術的照射の適応とならない脳転移を有する非小細胞肺癌患者に対するデキサメサゾンと支持療法に全脳照射追加の有無を比較する第3相ランダム化比較試験(QUARTZ試験)の結果

Dexamethasone and supportive care with or without whole brain radiotherapy in treating patients with non-small cell lung cancer with brain metastases unsuitable for resection or stereotactic radiotherapy (QUARTZ): results from a phase 3, non-inferiority, randomised trial.

Mulvenna P, Nankivell M, Barton R, et al.
Lancet. Published Online September 4, 2016

背景

これまで全脳照射によりQOLあるいは生存期間が改善することを示したランダム化比較試験はないが、全脳照射とデキサメサゾンは非小細胞肺癌脳転移の治療に広く用いられている。全脳照射を行っても予後は不良であり、生存期間やQOLを有意に損なうことなく全脳照射が省略可能かどうかを検証することを目的とした。

方法

手術もしくは定位手術的照射の適応とならない脳転移を有する非小細胞肺癌患者を対象にデキサメサゾンを含む支持療法(OSC)+全脳照射(20 Gy/5回) vs. OSCのみ、の多施設共同ランダム化比較試験(非劣性試験)を行った。施設、KPS、性別、脳転移が新たに診断されたものか増悪したものか、原発巣が制御されているか否かで層別割付を行った。主要評価項目には全生存期間とEQ-5Dを用いた質調整生存年(QALYs)を用い、OSC群におけるQALYs平均値の短縮が90%信頼区間で7日を超えなければ非劣性と判断する規定とした。パワー80%、有意水準片側5%で必要登録数は534と設定した。

結果

2007年3月から2014年8月までに英国69施設、豪州3施設から538人が登録された。全脳照射追加群で照射期間中に傾眠、脱毛、嘔気、頭皮の乾燥、掻痒感をOSC群より多く認めたが、重篤な有害事象に差はなかった。生存期間(ハザード比1.06、95%信頼区間 0.90~1.26)、QOLスコア、デキサメサゾンの使用量に関して両群間に有意差を認めなかった。OSC群のQALYs平均値は41.7日で、全脳照射追加群(46.4日)に比べ 4.7日の短縮(90%信頼区間 12.7日短縮~3.3日延長)であった。2007年3月から2014年8月までに英国69施設、豪州3施設から538人が登録された。全脳照射追加群で照射期間中に傾眠、脱毛、嘔気、頭皮の乾燥、掻痒感をOSC群より多く認めたが、重篤な有害事象に差はなかった。生存期間(ハザード比1.06、95%信頼区間 0.90~1.26)、QOLスコア、デキサメサゾンの使用量に関して両群間に有意差を認めなかった。OSC群のQALYs平均値は41.7日で、全脳照射追加群(46.4日)に比べ 4.7日の短縮(90%信頼区間 12.7日短縮~3.3日延長)であった。

結論

非劣性は証明されなかったが、QALYsの差はわずかであること、生存期間およびQOLスコアに有意差を認めないことから、全脳照射を行うメリットは少ないことが示唆された。

コメント

3-4個以下の脳転移に対しては、定位手術的照射後に全脳照射を追加する意義を検証する4個のランダム化比較試験が行われてきたが、今回、定位手術的照射の適応とならない脳転移に対して全脳照射の意義を検証する大規模ランダム化比較試験の結果が報告された。全脳照射を行うメリットは少ないとの結論だが、同時に掲載されたeditorialでは、定位手術的照射の適応とならない脳転移患者を画一的に扱うことへの懸念が示されている。サブグループ解析では、「70歳未満(とくに60歳未満)」、「KPS 70以上」、「頭蓋外病変なし」、「原発巣が制御されている」等のグループにおいて全脳照射追加群の生存期間が良好な傾向が認められ、これらの条件を満たす患者では引き続き全脳照射は治療選択肢に残ると述べている。また本試験では、「医師ないし患者が全脳照射のメリットがはっきりしないと感じた場合」には積極的に登録が推奨されており、登録の1/3以上をRPA class3が占め、全体のMSTも約2か月と予後の悪い集団を対象としていることにも注意が必要である。

 一方で、今回の試験結果から「多発脳転移=全脳照射」という画一的なアプローチが適切ではないことが示された。最近ではEGFR変異陽性の脳転移患者においてはチロシンキナーゼ阻害薬を先行させ、早期に全脳照射を行う意義は乏しいとする報告も認められ1,2、全脳照射が適応となるサブグループの明確化、治療の個別化が今後の課題である。

参考文献

1. Jiang T, Su C, Li X, et al. EGFR TKIs plus WBRT Demonstrated No Survival Benefit Other Than That of TKIs Alone in Patients with NSCLC and EGFR Mutation and Brain Metastases. J Thorac Oncol 2016;11(10):1718-28.

2. Khalifa J, Amini A, Popat S, et al. International Association for the Study of Lung Cancer Advanced Radiation Technology Committee. Brain Metastases from NSCLC: Radiation Therapy in the Era of Targeted Therapies. J Thorac Oncol 2016;11(10):1627-43.

Evidence level: 1b
PMID: 27604504

(国立がん東・中村 直樹、越谷市立・石倉 聡)

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