No.255
放射線によって誘導されるオートファジーは、G2期チェックポイントの活性化に依存して引き起こされる ~膵がんにおける放射線治療抵抗性のメカニズム〜
Radiation-Induced Autophagy in Human Pancreatic Cancer Cells is Critically Dependent on G2 Checkpoint Activation: A Mechanism of Radioresistance in Pancreatic Cancer Motofumi Suzuki et al.
International Journal of Radiation Oncology, Biology, Physics. 2021, 111(1):260-271, DOI: 10.1016/j.ijrobp.2021.04.001.
背景
膵がんは、放射線治療に抵抗性を示す。これまでに、放射線抵抗性にオートファジーや細胞周期チェックポイントが関与することが示唆されてきたが、両者の機能的な関係は不明であった。本研究では、放射線によって誘導されるオートファジーとG2期チェックポイントの活性化の関係について検討を行った。
材料と方法
ヒト膵がん細胞として4種類の細胞(MIA PaCa-2、KP-4、Panc-1、SUIT-2)を用いた。まず、細胞にX線照射を行った後、細胞周期の分布、オートファジー関連分子LC3とp62の発現、G2期チェックポイント関連分子cdc2とchk1のリン酸化、ATP産生レベルの推移などを経時的に追跡した。また、放射線を照射せずに、Double-thymidine block法を用いて細胞をG1/S期に同調させた後、リリース後の時間経過の中で、オートファジーやG2期チェックポイントが誘導されるかどうかについても調べた。次に、G2期チェックポイント阻害剤MK1775またはSCH 900776の投与がX線照射後のオートファジーの誘導に与える影響を調べた。最後に、MK1775の併用が放射線感受性に与える影響について、in vitro(膵がん細胞を用いたコロニー形成法)、および、in vivo(MIA PaCa-2細胞を皮下移植したマウスにおける治療16日目の腫瘍サイズの計測)で調べた。
結果
ヒト膵がん細胞にX線6Gyを照射して12時間後に、オートファジーの誘導、G2期停止、G2期チェックポイントの活性化が同時に見られた。一方、放射線を照射していない細胞をG1/S期に同調後にリリースし、大半の細胞がG2期に進行したタイミングにおいて、オートファジーは誘導されなかった。このことから、オートファジーは、細胞がG2期にあるだけでは誘導されず、放射線照射によるG2期チェックポイントの活性化に依存して誘導されることが示唆された。実際に、G2期チェックポイント阻害薬を投与すると、X線照射後のオートファジー誘導が抑制された。また、膵がん細胞においてMK1775を投与すると放射線への感受性が亢進した。さらに、膵がん細胞皮下移植マウスにおいて、X線(3Gy)照射とMK1775を併用すると、X線照射のみの群に比べ、有意な腫瘍サイズの抑制効果が見られた。
結論
ヒト膵がん細胞において、放射線照射によって誘導されるオートファジーがG2期チェックポイントの活性化に依存して引き起こされることが明らかになった。G2期チェックポイント阻害剤を放射線治療の増感剤として用いる治療の開発につながることが期待される。
コメント
近年、オートファジーの誘導が放射線治療や抗がん剤治療に対する抵抗性と関連する旨が報告され、今後のがん治療における新たな標的として注目される。今回のケースにおいても、G2期チェックポイント阻害に加えて、オートファジー阻害を併用することが、付加的な放射線増感効果をもたらすことができるかどうかが興味深い。今後の基礎的検討の進展と臨床への応用を期待したい。
(生物部会・学術WG 細谷紀子)