No.195
GWASを用いた放射線治療の有害事象の予測
Genome-wide association study identifies a region on chromosome 11q14.3 associated with late rectal bleeding following radiation therapy for prostate cancer.
Kerns SL, Stock RG, Stone NN, et al.
Radiother Oncol. 2013 Jun;107(3):372-6.
背景
前立腺癌の放射線治療において、晩期の直腸出血は患者のQOLに悪影響を与える。しかし直腸線量などの治療に関わる因子や、年齢や基礎疾患の有無といった臨床的な因子だけでは十分に出血を予測できず、遺伝的因子が重要だと考えられている。しかし、これまで行われてきたcandidate gene analysisという手法では再現性のある結果が得られていなかった。
方法
Genome-wide assosiacion study(GWAS)を用いて前立腺癌放射線治療後の晩期直腸出血に関わる遺伝子多型(SNPs)の探索が行われた。
まず単一の施設のdiscovery cohort(79人の出血群と289人のコントロール群)において614,453のSNPsを調べ、そこで有意差があったtop-ranking SNPsを4つの施設から集めたreplication cohort(108人の出血群と673人のコントロール群)において検証した。
結果
染色体11q14.3に存在するrs7120482とrs17630638が直腸出血との強い関連(genome-wide significance)を示した。有意な傾向があった17個のSNPsを組み合わせたpolygenic scoreを計算する事によって、高い精度で直腸出血を予測する事が可能であった(discovery cohortにおいてはAUC 0.892、replication cohortにおいてはAUC 0.737)。
考察
rs7120482とrs17630638というSNPsの下流にはSLC36A4という遺伝子がコードされており、それはmTORC1というシグナル伝達系を制御して、血管新生、増殖、細胞生存などに関わるとされる。またmTORシグナルは放射線増感にも関わるという報告もある。
結論
このGWASで前立腺癌放射線治療後の直腸出血に関わる新規遺伝子マーカーを同定した。この研究が有害事象の予測研究を発展させ、治療計画の個別化につながると思われる。
コメント
以前にJournal club No.179で紹介したように、従来のcandidate gene analysisという手法では放射線治療後の有害事象に関わる遺伝子の同定ができなかった(再現性のある結果が得られなかった)のですが、さらに大規模な症例数と最新のDNA解析技術を用いる事によって予測が可能になりつつあるという内容で、個人的にはとても衝撃を受けた論文でした。
1つ1つの遺伝子の影響力は小さいものの、その積み重ねで大きな影響が現れるという考え方は、少数の影響力の大きな遺伝子欠損で、放射線感受性というものを説明しようとしてきた従来の放射線生物学とは一線を画するものとなると思います。
Evidence level 3
PMID: 23719583
(札幌医大学・染谷 正則)