No.193
泌尿器科医による前立腺癌へのIMRT利用
Urologists' Use of Intensity-Modulated Radiation Therapy for Prostate Cancer
Jean M. Mitchell
N Engl J Med 2013, 369(17):1629-37.
背景
米国において、ある泌尿器科医のグループはメディケアから高い返金率が得られる前立腺癌IMRTを臨床で使用している。これは本来は許されていないSelf-referral(各臨床科内のみあるいは各主治医のみが単独で意思決定を行い、診療行為を行う事)であるが、病院内での補助的な治療オプションとして除外的に認めらているために可能となっている。そこでIMRTサービスの所有と前立腺癌IMRT利用の関係について調べられた。
方法
2005-2010年のメディケア請求データを利用して、2つのサンプルを作った。
1つは35のprivate practiceにおいてSelf-referを行う泌尿器科のグループと、それに背景をマッチさせた35のSelf-referを行なわない泌尿器科のグループのセット。
もう1つは、11のNCCNセンターに雇用されたSelf-referを行なわない泌尿器科のグループと、それに背景をマッチさせた11のSelf-referを行う民間泌尿器科のグループのセット。
IMRTの利用状況について、IMRT治療でメディケアからの診療報酬が得られるようになる(Ownershipを持つ)前と後になってからの時期を比べ、それがself-referralの有無によって差があるのかを検討した。
結果
Ownershipを持つ事で、Self-referを行う泌尿器科医のIMRT利用は13.1%から32.3%に変化した。
Self-referを行なわない泌尿器科医のIMRT利用は14.3%から15.6%に変化した。
回帰補正を行ったSelf-referを行う泌尿器科医のIMRT利用率の変化は16.4%増であった。
NCCNセンターに勤務する泌尿器科医によるIMRT利用は8.0%で変化が無かったが、それに背景をマッチさせたSelf-referを行う泌尿器科医のIMRT利用は33.0%に増加が見られた。
回帰補正を行ったdifference-in-differences効果は29.3%であった。
結論
IMRTサービスのOwnershipを持つ泌尿器科医は、IMRTサービスを持たない泌尿器科に比べ、IMRT利用を増加させた。泌尿器科医にIMRTへのself-referを許している事が、この高い増加率に寄与している。(この論文はASTROからの研究助成を受けた)
コメント
この論文はGeorgetown Universityの経済学者である、Jean M. Mitchell氏によって報告されています。
論文内のTableを見ていくと、前立腺癌に対する治療の推定平均コスト(つまり得られる診療報酬)が、根治的前立腺全摘術が16,762ドル、小線源治療が17,076ドル、IMRTが31,574ドル、内分泌療法2,112ドル、Active surveillanceが4,228ドルと書かれています。
実際には泌尿器科病院に雇われた放射線腫瘍医が、病院内にあるIMRTの機械を使って治療を行っていると思われますが、高い収入が期待できるIMRTに、泌尿器科の民間病院が多く参入しているという現状を客観的なデータで批判的に論じています。
ASTRO Chairman Colleen A.F. Lawton, MD, FASTROは、この調査の結果に関する社会の深刻な懸念を表明し、「Dr Mitchellの研究により、多くの男性は、self-referのために、前立腺癌に対する不必要な放射線療法を受けている事は明らかで、議論の余地のない証拠を提供しています。我々は放射線治療のためのself-referralを終了し、この濫用から患者を保護する必要があります」と述べています。
私も同様に、前立腺がん治療ガイドラインは、利用可能な最善の臨床的証拠に基づいており、ビジネスやケア提供者の個人的な利益に左右されないべきであると思います。
10月23日付のASTRO news releaseでもこの論文がきっかけとなった問題について多くの議論がなされています。興味のある方は、是非入手して読んでください。
Evidence level: -
PMID: 24152262
(札幌医科大学 染谷 正則、堀 正和)