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No.172
ヒトパピローマウイルスと中咽頭癌患者の生存率

Human papillomavirus and survival of patients with oropharyngeal cancer

Ang KK, Harris J, Wheeler R, Weber R, et al
N Engl J Med. 2010;363:24-35.

背景

ヒトパピローマウイルス(HPV)によって引き起こされる中咽頭扁平上皮癌は予後が良好であることと関連しているが、腫瘍のHPV感染ステータスが独立した予後因子かどうかは未だ明らかでない。

方法

III-IV期の頭頸部扁平上皮癌に対するシスプラチン併用化学放射線療法において、通常分割と加速分割照射(concomitant boost照射を用いることによる加速)を比較した臨床試験に登録された症例のうち中咽頭原発症例のHPV陽性及びHPV陰性の死亡リスクを比例ハザードモデルを用いて遡及的に解析した。

結果

観察期間中央値4.8年で、3年全生存率は両群で同等(70.3% vs 64.3%, p=0.18 加速分割群での死亡ハザード比0.90[95%信頼区間, 0.72-1.13])、急性期および晩期有害事象発生率も同等であった。中咽頭がん症例の63.8%(323人中206人)はHPV陽性で、HPV陽性群の3年生存率は良好であり(82.4% vs 57.1%, p<0.001)、年齢・人種・T因子・N因子・たばこ暴露・線量分割法の調整後でも、HPV陽性は死亡リスクを58%減少させていた(死亡ハザード比0.42[95%信頼区間, 0.27-0.66])。喫煙箱年が増加するにつれて死亡リスクは有意に増加していた。
recursive-partioning analysis (RPA: 再帰分割解析)を用いてHPV感染ステータス・喫煙箱年・T因子・N因子の4つの因子に基づいて、死亡リスクを低・中・高リスク群に分類した。

結論

腫瘍のHPV感染ステータスは中咽頭がん患者の生存において強力かつ独立した予後因子である。

コメント

子宮頚癌のみならず頭頸部癌においてもHPV陽性例が14-68%と高く(特に中咽頭原発例は高い)、HPV陽性例では放射線高感受性で予後良好であるとの報告が近年相次いでいる。本論文はRTOG 0129試験のHPV関連付随研究で、臨床試験レベルでの化学放射線療法においてHPV感染ステータスが明らかな予後予測バイオマーカーである事が追認された事は注目に値すると思われます。

今後の臨床応用として頭頸部癌の治療法選択にHPVを用いる際に、PCR法によるHPV-DNAで判定すべきか、より簡便な方法として免疫染色でのp16過剰発現で判定してよいのか悩む機会が起こりうるのではないかと思う。
本論文ではHPV-16-DNAの他に、18・31・33・35・39・45・51・52・56・58・59・68などの遺伝子型いずれかの陽性でHPV陽性と定義している(うちHPV-16-DNA陽性例が占める割合は96.1%)。HPV-DNA陽性とp16陽性の一致率はinterclass correlation coefficient(ICC: 級内相関係数)が0.80であり、著者は非常に高いと結論付けていますが、1割程度で偽陰性・偽陽性が存在するようでは悩ましいと感じました。
ただしp16陽性による死亡リスクは0.29(95% 信頼区間, 0.20-0.43)とHPV-DNAの0.42(95%信頼区間, 0.27-0.66)を上回っており、HPV陽性と断言はできないもののp16陽性のみをもって放射線治療の良い適応と判断して差支えないようです。
実際に、最近登録が始まったHPV感染陽性の中咽頭扁平上皮癌のみを対象としたRTOG1016試験でもp16陽性のみで適格としています。
この試験はCDDP(100mg/m2, day1, 22)同時併用の化学放射線療法をコントロール群とし、cetuximab併用の放射線治療を比較検討するランダム化比較試験(両群ともIMRT必須)で、予後良好群に対する低侵襲治療開発を目的としているようです。


(国立がん研究センター中央病院 黒田 勇気 伊藤 芳紀)