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No.154
直腸癌に対する術前放射線療法と選択的な術後化学放射線療法における多施設ランダム化試験

Preoperative radiotherapy versus selective postoperative chemoradiotherapy in patients with rectal cancer (MRC CR07 and NCIC-CTG C016): a multicentre, randomised trial.

Sebag-Montefiore D, Stephaens RJ, Steele R, et al.
Lancet March 7 373:811-820, 2009

背景

直腸癌に対する根治治療は手術であるが、術後に局所再発した場合有効な治療法は残されておらず、耐えがたい症状に悩まされる。局所再発後の予後は厳しく、中央生存期間は12-18か月程度である。1998年以前のランダム化試験では、手術単独での局所再発率は高く、術前もしくは術後に放射線治療をくわえることで局所再発率が抑えられると報告された。その後、化学療法の併用の有効性が証明され1990年には米国で完全切除が可能であったIないしII期に対しては術後の化学放射線治療が標準治療とされた。
しかし、骨盤への放射線治療は後期有害事象を増加させるため、局所再発率のリスクの高い症例の選択が重要と考えられた。1990年代の後半になると、手術技術が進歩(TMR: Total mesorectal excision全直腸間切除)したことで、 5年 局所再発率が10%未満に減少した。
また、術後病理で円周性切除断端の陽性例(?1mm)が局所再発ならびに予後不良の高リスク群であると報告された。
 こうした手術術式や病理診断の進歩に伴い、直腸癌に対する放射線療法の役割に対する再評価が必要であると考えられることから、直腸癌に対するルーチンの短期術前放射線療法と切除断端陽性症例(?1mm)に適応となる選択的な術後化学放射線療法の多施設間ランダム化試験を行った。

方法

期間: 1996年3月16日 - 2005年8月5日
施設: 80施設 4カ国 (内訳は、69 UK, 9 Canada, 1 South Africa, 1 New Zealand)
適応: 1350例 遠隔転移のない手術可能直腸癌(腺癌)を以下の2群にランダム化した。

(1)術前放射線療法群 674例がエントリーされ614例に施行
総線量 25Gy/5回/1週間 *照射後 7日以内の手術を推奨
照射野:小骨盤腔

(2) 術後化学放射線療法群 676例がエントリーされ53例に施行 (術後病理で円周性切除断端(≤1mm)陽性例)
総線量45Gy/25回
照射野:小骨盤腔
化学療法:5-FU 200mg/m2 の連日の持続点滴 もしくは、5-FU 300mg/m2 ならびに leucovorin 20mg/m2の週1回投与

結果

生存症例の観察期間中央値 4年
死亡330例(術前放射線療法群 157例、術後化学放射線療法群 173例)

局所再発: 99例(術前放射線療法群 27例、術後化学放射線療法群 72例)
HR=0.39 (95% CI 0.27-0.58); p<0.0001
2群間に有意差あり
術前放射線療法の方が相対的に61%の局所再発率低下
無病生存率: HR=0.76 (95% CI 0.62-0.94); p=0.013
2群間に有意差あり
術前放射線療法の方が相対的に24%の有病率低下
全生存率: HR=0.91(95% CI 0.73-1.13); p=0.41
2群間に有意差なし

結論

切除可能な直腸癌に対して、術前放射線療法は、選択的な術後化学放射線療法に比較して局所制御率ならびに無病生存率が有意に優れていた。また、全生存率では両群間に有意差は認められなかったが、長期的な経過観察を行えば、有意傾向があるのではないかと予想された。

コメント

本邦の大腸癌専門施設においては、下部直腸進行癌に対してはTMEあるいはTSME(Tumor specific mesorectal excision)+ 側方郭清が標準的に行われており、生存率が良好で局所再発率も低いことから、欧米で標準となっている術前化学放射線療法は積極的には行われていない。したがって、本邦では直腸癌に対する放射線療法の有用性を示すランダム化試験は施行されていない。術前化学放射線療法が予防的側方郭清の代替になるか否かは検討の余地があるが、手術と化学放射線療法の有害事象を考慮した臨床試験が必要である。


(橋本 弥一郎/三橋 紀夫)